親指シフトって何?
親指シフトはかな打ちできる
皆さんこんにちは、親指シフターのミツイです。
親指シフト、しています。
みなさんこんにちは。普通のOL、タカです。普通にローマ字入力してます。
親指シフトしないんですね。
おかしいですね。
それはともかく、
みなさんは親指シフトしていますか。
していないですよね。
きっと、していないですよね。
そもそも親指シフトとか、親指シフターなどといっても、なんのことかわからないですよね。
ということで、この記事を読むと
親指シフトとは?
「かな」配列とちょっと違う親指シフトの考え方。
じつは親指シフトすること自体はむずかしくないよ。
といったようなことがわかります。
目次
そもそも親指シフトって?

親指シフトというのは、いったいなんでしょうか。
親指シフトというのはいまから半世紀近く前の1980年に発売された、富士通の日本語ワードプロセッサ『OASYS』に採用された独自配列であり、そしてキーボードのことです。
上の図は親指キーと変換キーがそれぞれ独立して存在しますが、親指シフトキーと変換キーを共用するタイプの親指シフトもあります。
ハードウェア上の理由などから、今までは変換キー共用タイプが主流でした。

親指シフトのよいところひとつ
それでは親指シフトのよいところひとつ、ご案内いたしましょう。
親指シフトのよいところ
- かな打ちができる。
これですね。
もはや決定打。
アルファベットの[S]とか[D]とか[F]とかではなくて、かなの[し]とか[て]とか[け]とか、などを直接打ちます。これがいいんです。[し]という文字を打ちこむのに、[し]という「かな」キーをいきなり打つんですよ。ヒヒ。
これを知っただけでも、親指シフトに興味を持たれる方がいらっしゃるかと思います。
もしかしたらタカさんも興味しんしんかもしれませんね。
べつに。
ところで、みなさんのなかにはこんなふうに思われる方もいらっしゃるかもしれません。
わざわざ親指シフトなんてしなくても、ふつうの日本語キーボードだって「かな」入力できるでしょ。しかもとくべつなソフトや環境を用意する必要もないわけだし。
はい、その通りです。
JIS「かな」というのを使うと、やっぱり「かな」入力できます。そのためのとくべつな環境もとくべつなキーボードも原則的には必要ありません。
それならJIS「かな」のほうがいいんじゃないでしょうか?
ですよね。
わたしも、JIS「かな」にはJIS「かな」の良さ、メリットがあるよな、というふうに思います。
それでは皆様、ハッピーなJIS「かな」ライフを。
ごきげんよう。
終わりなのかい
ということもなくて

親指シフトにも、親指シフトの良さがあるんですね。
親指シフトキーボード
あらためて、ですが、親指シフトキーボードは1980年、富士通の日本語ワードプロセッサ・OASYSに採用されました。当時その使いやすさから多くの支持者、熱狂的なファンを生み出し、市場規模は小さいものの「日経100品目調査」によると1981年の市場シェアで首位となったそうです。(日本語入力コンソーシアムの公式サイト)より

でも親指シフトキーボードは国が定めた標準規格のキーボードではありませんでした。英語キーボードや、場合によっては自作キーボードなどを使う人もいる現在と違い、当時は標準規格でないことがとても大きなデメリットになりました。さらには他メーカーによる低価格機種の攻勢などもあってしだいに親指シフトキーボードは劣勢を余儀なくされていきます。
それでも1987年には富士通は巻き返しを図って、あらたに発売したパソコン・FMRシリーズにおいて親指シフトキーボードを標準キーボードの座に据えました。PC標準のキーボードがJIS規格のキーボードではなくて、親指シフトキーボードだった、そんな時代もあったのです。(参考・「親指シフトキーボードをお使いになる方へ」)
ですが、当時は富士通のキーボードを他社のPCで使うことはできず、ハードウェア自体の高価さなども手伝って富士通が意図したような「デファクト・スタンダード」になることはありませんでした。
富士通はそれから2020年頃までの約40年間にわたって親指シフトキーボードを手掛けてきましたが、「デファクト・スタンダード」にはなり得ないという判断のもと、現在は販売が終了しています。
しかし現在でも熱心な親指シフトの使い手は健在であり、一般的なキーボードで親指シフトを実現するプログラム(親指シフトエミュレーター)の開発もつづいています。新規に親指シフトをはじめる方もけして少なくはない印象です。
親指シフト配列
それでは具体的に親指シフト配列でどんな風に打ち込んでいくのか、みてみましょう。
シフトなし
まずは「ノンシフト」シフトなしでの配列です。

これにかんしては説明する必要はないですね。ローマ字入力でいうところの[A]とか[U]なんかの母音キーとおなじで、ただそのキーをシンプルに押せばキーに割り当てた「かな」が打てます。
[J]キーをふつうに打てば、「と」になります。 [K]キーならば「き」です。
ふつうです。
シフトあり
つぎがシフトあり、です。
下図に示したのが「シフトあり」の「かな」になります。

親指シフトの場合、ちょっと厄介なのがこの「シフトあり」です。
「シフトあり」という表現のせいで大昔から誤解されているのが
「親指シフトキーを押しながら文字キーをタイプする」
と受け取られてしまうことです。
両サイドにあるシフトキーを親指で打てるよう真ん中に移動したのが、親指シフトキーなんだろうと、多くの人がそう思ってしまうんですよね。
それ、ふつうに思いますけど
思いますよね。

たしかに絵で見るかぎり、そんなふうに見えます。しかも、いかにも親指シフトキーが肩で風切ってブイブイいわせている、という感じがありますね。
そこまでは言ってません。
でもヒトとキーボードを見た目で決めつけてはいけません。じっさいの親指シフトでは、親指キーがまったくといっていいほど自己主張しないんです。
ちょっとなに言っているか、わかりませんね。
親指シフトとほかの配列はどこが違うの?
下の図は一般的な「かな」配列の図です。
過去のいきさつもあり、現代では使う人も少なくなってしまいました。でも、かつてはローマ字入力ではなく、親指シフトでもなく、このJIS「かな」配列が日本語入力の標準だった時代もありました。

JIS「かな」配列では小書き文字の「ゃ」「ゅ」「ょ」、促音の「っ」、そして「を」などがシフト側の「かな」になります。
たとえば数字の[0]キーの位置を押せば「わ」が出てきますし、シフトキーを押しながら同じキーを叩けば「を」が出てくることになります。
- シフトなし → 「わ」
- シフトあり → 「を」
JIS「かな」配列はもともと機械式タイプライターを想定したものなので仕方がないのですが、シフトなしの「わ」と、シフトありの「を」とでは、手の動きがまったく違ってしまいますよね。シフト側の文字は「押しながら」という別の動作が入ってしまいますから、当たり前といえば当たり前ですけど。
たしかに。
JIS「かな」配列の場合はシフト側の文字が少ないからまだいいのです。
でもすべての「かな」をアルファベット領域とおなじように3段に収めようとすると、シフト側の「かな」もシフトなしの「かな」と同じくらいキーを使うことになってしまいます。

数が多くなってしまったシフト側の文字を打つとき、すべて「押しながら」という動作が入ってしまったら、これはちょっと打ちづらいんじゃないでしょうか?
それに比べるとローマ字入力なら「お」と打つときと、「を」と打つときとでは、タイピング数に違いはあっても手の動きは同じです。
そういう意味ではまちがいなく、ローマ字入力は機械式タイプライターの欠点を克服したと言えそうですね。
じゃあローマ字入力でいいんじゃないでしょうかあ?
いきなり文字を大きくしましたね。
ところでローマ字入力で「を」と打つとき、いつでもどんなときでも絶対に[W]キーを先に押さなければならないのは厳しいかも、と思ったことはないですか?
ないですね。順番通りに打てばいいだけですので。
私はどちらかというと不器用なほうなのでたまにあるんです。一瞬だけ[O]キーを早く押してしまった場合でも「おw」になったりせずに、ちゃんと「を」になってほしいなあ、と思うことが。
そうなんですね。
でもこれは無理なんです。
いま打った[W]キーは[O]キーにかかって「を」となるのか、それとも前後で押された(かもしれない)別の母音キーにかかって「を」とは違う「かな」になるのか、そこを明快に区分けして、タイピストが意図した通りの「かな」にする技術、というかロジックは(2026年現時点では)まだないという認識です。(「のようなもの」は存在するみたいですけど、「のようなもの」以上ではないです)
なので、[W]キーは先に押す必要があります。

それに対して「ヒトはミスタイプをするもの」なので打鍵の順番は正しくなくていいよ、という前提に立ったのが親指シフト開発スタッフだったんです。
ふたつのキーを使って打鍵順序に関係なく「な」を出すためには、ほかの文字キーとのあいだに矛盾が生じない「第三の」キーをもってくればいい、と親指シフト開発スタッフは考えたんですね。
そこでスタッフは、試作のキーボードを使ってあらゆる指の組み合わせで同時打鍵の実験をおこないました。

そして
同じ側の親指とほかの指の組み合わせならば同時打鍵が自然に感じられる
という結論にいたりました。
※ このあたりの開発経緯を「なぜ親指でシフトしたのか?」という記事に書いたので、よかったら目を通してみてください。
シフトキー、先に押さんでも超OKっす。
コロンブスの卵、といっていいようなちょっとした工夫ではあるんですが、機械式のタイプライターでは真似できないこの仕組みを採用したことで、ヒトにとって自然な、日常的な「あの動き」のままでタイピングすることが可能になったんですね。
あの動き?
ものをつかむ
動きです。
ものをつかむ動きで[A]キーと左親指キーをいっしょに押してやると「を」になります。もしくは、ものをつまむような感覚で、[J]キーと同じ側にある右親指キーとを「ポン」と弾くと「お」が出てきます。
さっき「ノンシフト」のところで「ただそのキーを押せばキーに割り当てた「かな」が打て」ると書きましたが、「同手シフト」においても感覚的にはそれに近い感じになるんです。
このさい、シフト、しているんです。たしかに。
でもJIS「かな」配列と違って「シフトキー押しながら」ではないし、ローマ字入力のようにキーを押す順番も気にかけなくていい。
タイミングに関係なく、ただものをつかむ手の動きでふたつのキーをいっしょに押せばいいだけなので
シフト感をほとんど感じずにすむ、のです。
「を」という「かな」をダイレクトに打っているような気分になれるんですね。
でもそれって、ただの錯覚なのでは?
はい、錯覚です。
でもそんなふうに、いい感じに錯覚できるってのは、JIS「かな」配列ではなかったんです。もちろんローマ字入力とも違いますしね。
もっともJIS「かな」配列にかんしてはちょっとかじった程度なので、そんなに詳しくはありませんけど。
いずれにしても、サイドに位置するShiftキーを親指で打てるよう、スペースキー領域に移動したのが親指シフト、という解釈は表面的なものでしかないんですね。
逆サイドシフト
シフトなしとシフトあり(同手シフト)、これだけですべての「かな」を打ち込めるかというと、まだ足りません。
濁音、半濁音をどうするか、という問題がまだ残っています。
濁音は「逆サイドシフト」方式、つまり文字キーとは反対側の親指キーを使って打ち込みます。こちらのほうがふつうのShiftキーのイメージに近いかもしれませんね。

たとえば「た」を割当てた左側の[E]キーと、反対側の右親指キーを同時打鍵すれば濁音の「だ」になり、「き」を割当てた右側の[K]キーと、反対側の左親指キーを同時打鍵すると濁音の「ぎ」になる、といった感じです。
配列図を見て気づいた方もいると思いますが、親指シフトでは濁音に変わりうるような清音(「か」とか「は」とか)はすべて「シフトなし」に配置してあります。
なので、すべての濁音は、清音とは反対側の親指キーとの同時打鍵で打ち込むことができます。シンプルで一貫性があるため、慣れてくると迷いなくなにも考えずに打てるようになります。

半濁音は?
では、半濁音はどうしたらいいでしょうか?
もともとの親指シフトキーボード、つまり日本語ワードプロセッサOASYSのキーボードでは、半濁音は通常のシフトキーとの同時打鍵で打ち込んでいました。

この方法ですと、清音の「は」を割り当てた[H]キーとShiftキーを同時打鍵すれば半濁音の「ぱ」を打ち込むことができます。
つまり
- 「は」 → [H]キーのポジションをシフトなし
- 「ば」 → [H]キーと反対側の親指キーを同時打鍵
- 「ぱ」 → [H]キーとサイドのShiftキーを同時打鍵
それ以外の「かな」(「ひ」「ふ」「へ」「ほ」)もすべて同一キー、同一操作で打てる方式でした。
わかりやすいですよね。
それはいいのですが、ただ、ここで違和感を抱く人がいるかもしれません。
キーボードなど触ったこともない人が大半を占めた1980年代であれば問題なかったでしょうが、多くの人がローマ字入力を経験している現在では、必ずしも好意的に受け入れられるキー配置とは言えないかも、です。
Shiftキーを押しながら[H]キーをタイプしたんなら、当然大文字の「H」ですね。
という方も多いでしょう。
ということもあって1989年に設立された日本語入力コンソーシアムでは、従来の半濁音とはべつに「逆サイドシフト」方式でも打てるよう新たにレイアウトを変更しました。

これによって両端にあるShiftキーを使わなくても「ぱ」とか「ぴ」を打てるようになりました。
なので新たに規格として制定されたNICOLAは古典的な親指シフト配列を改良したものなのだ、というのが定説です。

ただ、図を見てもらえれば一目瞭然のように、清音の「は」と半濁音の「ぱ」の配置はまったく関連性がなくなってしまいました。
なので、「半濁音が覚えられないよ」、という意見はときどき出ます。
と、他人事のように書いてしまいましたが、
私もなかなか覚えられませんでした。
親指シフトはむずかしい?
でも親指シフトってむずかしいんじゃないですか?
答え ぜんぜんむずかしくないです。
ローマ字入力よりずっと簡単だと私は思ってます。
でもそれはミツイさん個人の意見ですよね。ネット上では、親指シフトは特別なコツが必要なので習得するのがむずかしい、とか、高い技術をもったプロが使うものなのだ、みたいな、そんな意見を目にすることが多い気がしますけど。
確かに、まともに親指シフトできる環境にもっていくまでの技術的なむずかしさは、あります。
パソコン用のOS、WindowsもmacのOSもアメリカ人が造ったものなので親指シフト化しようとすると現状ではやっかいな問題があるのは事実です。だからこそ富士通も親指シフトから撤退せざるを得なかったと思います。
なのでこのサイトもまた、
「皆さん、これから親指シフトをはじめましょう」
みたいな言い方はしません。
運転するのがすごく楽でごきげんな車があったとしても、運転するまでのセッティングが大変なんです、という前提を知らないでその車を乗り始めても、うまく行かない人が多いだろうと思うからです。
でも言い方を変えると、きちんと設定された環境さえ手に入れば、1980年代におおきな支持を集めたOASYSキーボードの魅力をきっと再確認できると思います。が、その話はいったん置いといて。
ここから先は客観的な話をします。
最初にも書いたように親指シフトキーボードは1980年、日本語ワードプロセッサOASYSに採用され、その使いやすさでまたたく間に多くの人々を魅了したという経緯があります。

と、ここまでは「そういう話聞いたことあるよ」という方がいるかもしれません。でも、ここから先はあまり指摘されたことがないのですが、意外と見落とされている単純な事実があります。
それは親指シフトのトリコになった人たちのほとんどが(ほぼ全員に近いと思いますが)
初心者だったということです。
当然ですよね。
1980年以前は誰も親指シフトなど使ったことがないのですから、長い年月にわたってむずかしいプロの技術である親指シフトを習得した、などという人はいなかったはずですよね。
それどころか、つい昨日までキーボードに触れたことがないよ、という人がふつうにいた時代でした。
使っていた人がいたとすれば、開発スタッフさんとかに限られますよね。
親指シフト開発スタッフのリーダー、神田泰典さんは「1年くらい自分で使ってみて良かったから親指シフトキーボードの採用を決心した」といった主旨の文章を書いています。でもスタッフ以外の人はほぼ全員が「初めてさん」だったわけですね。
そしてその「初めてさん」たちは親指シフトのトリコにはなったけれど「親指シフトは習得するのがむずかしい」とは思わなかった、ーーらしいですね。
ちなみにこの時代、日本能率協会総合研究所というところが、それまで一度もキーボードを触ったことのない5人のメンバーを集めて親指シフトとローマ字入力を同じ時間(40時間)体験させた、みたいな実験を行ないました。(「ワープロらくらく速習法」大島章嘉・銘子著 日本能率協会発行より)
実験が終了した後、メンバーに今後どちらを使っていきたいかと尋ねたところ、5人中4人までがローマ字入力ではなく親指シフトを選択したのだそうです。
(実験のより詳しい内容は「親指シフト配列・NICOLAっていいよ、と言いつつ、NICOLAにしないアレな理由」という長〜いタイトルの記事のなかで書いています)
ちなみにその人たちがローマ字入力より親指シフトを選んだ理由というのは
「親指シフトなら高速入力できるばーい」
ではなく
- ひとつの「かな」が1打鍵(の感覚)で打てるのがよい。
- 使うことの多い「かな」が真ん中(ホームポジション)にあるので打ちやすい。
つまり「ローマ字入力より親指シフトのほうがやさしかった」ということのようでした。

とはいえ
上の例を違う視点からみると
「キーボードに一度も触ったこともないまったくの初心者だったからこそ、親指シフトになじめた」
という言い方はできるかもしれません。
現在はほとんどの人がローマ字入力を経験していて、いわばローマ字入力「パス」が通っている状態なので、今すでに持っている技術を捨ててあらたに親指シフト「パス」を通そうとしたら、それはそれで一定の困難さはあるだろうと思います。
それでも、親指シフト入力そのものが難しいわけではない、ということはわかっていただけたかと思います。
以上が個人的な主観抜きでの話でした。
なぜ親指シフトはむずかしくなってしまったのか
なぜ親指シフトはむずかしいものになってしまったのでしょうか。
最大の理由はキーボードも含めた実装の面倒くささ、なんですが、ここでは使い手の視点から見たとき「親指シフトがむずかしくなってしまった理由」をふたつあげたいと思います。
ひとつはいま書いたように、現在はローマ字入力が標準だからです。すでに慣れたローマ字入力から未経験の配列、入力方式の親指シフトを新たに覚えるとなるとそれなりにストレスがたまることになるでしょう。
ちなみに私の場合はその逆バージョンで「親指シフトからローマ字入力へ」というパターンでした。その当時は完全に親指シフトをシャットアウトしてローマ字入力一本に絞ったにもかかわらず、完全に慣れるまでの半年くらいはストレスの連続だったと記憶しています。(ちなみに現在はもちろん親指シフトです)
話がそれました。親指シフトが難しくなってしまったおおきな理由がもうひとつあると思います。
親指シフトのスタンダードが消えてしまったから。
これに尽きると思います。
ワープロ専用機の時代はよかった、のです。家電量販店に足を運べばふつうに親指シフトキーボードのOASYSを手にすることができました。プロの作家たちのうちでも少なからずの人たちが親指シフトキーボードを使っていたのもこの時代でした。
時代 は移り変わり、ワープロ専用機からパソコンに移行してもしばらくのあいだは大丈夫なようでした。1990年代半ば頃までは、秋葉原へ足を運ぶとふつうに富士通の親指シフトキーボードを手に入れることができました。

異論100連発あることを承知で言えば、親指シフトのスタンダードといえるキーボードはこの時代、つまりWindowsが出始めた1990年代半ば頃までだったかなあ、などと個人的には思っています。
その後も親指シフトキーボードの販売自体はつづいたのですが、軌道修正がかけられたように思えました。それ以前に感じられた”親指シフトをデファクト・スタンダードへ”という考え方から、”既存ユーザーのサポートへ”という方向にカジが切られたように感じたのです。
客観事実としても、その後は親指シフトキーボードの入手ルートが極めて限られることになるのでした。
なにを言いたいかというと、「親指シフトはこうです」とか「同時打鍵とはこういうものだよ」なんて説明をしなくても、スタンダードなキーボードがあれば説明不要、試してみればすぐわかることでした。勘違いしてもそれを指摘してくれる人が多かったから、親指シフトがむずかしくなることはなかった、と思うのですね。
最初の方でも、「親指シフトは文字キーの先押しOKですよ」ということを書きましたが、おそらくこのサイトを知らない方(つまりはほとんどの人、という意味ですが)はそうは思ってない人が多いのではないでしょうか。
「同時打鍵? いやいや同時打鍵とはいっても名前が親指「シフト」なんだから、じっさいにはコンマ何秒かは親指シフトキーを先に押さなければいけないんだよね」
そんなふうに思っている人がいるでしょう。
きっといます。
絶対にいるにちがいありません。
なぜそんなにチカラを注いでいるのですか。
私がそう思っていたからです。
親指シフトのサイト運営者としては黒歴史かも。
ここで言い訳をしてしまうと、かつては高名な学者さんとか専門家なども私とおなじような勘違いをしていた方がけっこう多くて、その視点から親指シフトを批判する意見も珍しくはなかったんですよ。
例えば
親指シフトに対する批判その1.「親指シフトは疲労が激しい」説。
ですね。
マスメディアなんかにも頻繁に取り上げられていたけっこう高名な学者さんの意見でした。
批判の主旨としてはこんな感じです。
「親指シフトは手首を内側にひねる動作が多いので、疲労が激しい」
内側にひねるんですか?
では、ここで問題です。
仮にいま眼の前に一個のりんごがあったとします。あなたはそのりんごを手にするとき、手首を内側にひねりながらつかみますか? それとも外側にひねりながら手にしますか?
なんか怪しいひとみたいですね。

たいていは内側にも外側にもひねらないで、ただ真っすぐ手を伸ばしてりんごをつかむんじゃないでしょうか。
親指シフトもおんなじです。ものをつかむ手の動きでキーを打つので、手首をひねったりはしないんですよ。風変わりなご趣味をお持ちの方はべつかもしれませんが、キーを打つとき、いちいち内側とか外側にひねっていたら仕事になりませんので。
おそらく、という私の想像でしかないのですが、その学者の方の考えとしてはまず親指シフトでシフト側の文字を打ち込むときには(必ず)親指シフトキーを先に押さなければいけない、と。
である以上は手首を内側にひねるような動きが出てくるのではないか。そういう発想があったのじゃないかなあと想像するんです。
もっとも、かつてはそういう勘違いがあってもそれほど不思議ではなかったと思います。
以前は親指シフトの仕組みなどもブラックボックスに包まれていたので、親指シフトキーボードを外側からみているだけでは、(親指)シフトキーの後押しOKを知らなくても仕方がなかった、知らないのがふつうだったろうと思うからです。
それから別の意見です。
親指シフトに対する批判その2.「親指シフトはタイミングがむずかしい」説。
この主張を唱えた方もいわゆる専門家と称される人でした。
批判の主旨としては
「親指シフトは微妙なタイミングの取り方がむずかしいので、実用性に問題があるのではないか、云々」
みたいなニュアンスの文章を書いていらっしゃいました。
基本的にはこれも上記の学者の方とおなじだと思うんです。
微妙なタイミングの取り方がむずかしい……。
なぜ微妙なタイミングの取り方が必要になるのかといえば、同時打鍵といってもじっさいには親指シフトキーをほんのすこしでも先に押さなければいけないから、ですよ。だって親指シフトなんだから。
素早くタイピングしているとき常に親指シフトキーを先に押さなければならないのだとしたら、タイミングを取るのがむずかしくなってしまうはず。
その専門家の方の考え方はそういうものだったろうと思います。

いかがでしょうか。
現在でも
「親指シフトはむずかしい、特別なコツが必要になる」
と思い込んでいる人たちのなかにはおなじような勘違いをしている場合が少なくないんじゃないでしょうか。
かつては実態とかけ離れた誤解をする人がいても、先入観なしに気軽に親指シフトをはじめることができたので、誤解だということがすぐに体感できたんですね。
でも現在はそうではありません。なので勘違いが勘違いのまま増殖してしまい「親指シフトはむずかしい」という固定観念ができあがってしまったのだろうなあ、というのが私の見方です。
書いたように私もおなじ系統(?)の誤解をしていたので、かつての専門家や学者の方を批判する資格はないし、批判する気もありません。
ですが実際に親指シフトキーボードを使いはじめていくと、やがて「どうも変だな」ということに気づいたんです。
どうも変ですね。
そのココロは
自分はとくべつ器用な人間ではない。どちらかといえば不器用な方だ。
だからシフト側の文字を打とうとしたときに親指シフトキーを押すのがちょっと遅れる、などということはふつうにあっておかしくない。
なのにシフト側の文字を打とうとしたときは(あきらかなミスタイプをのぞけば)確実にシフト側の文字を打てている。
妙だ。自分はそんな優秀な人間ではないぞ。
結論、もしかしたらこれはなにかの陰謀ではないか。
とここまで考えてようやく自分の考えが間違っていたことに気づいたのでした。

じつは私のような不器用者を想定して
- 親指シフトキーを押すのが遅れても大丈夫
- 微妙なタイミングを取らなくても大丈夫
な、仕組みづくりをしたのが親指シフトだったんですね。
まとめ
親指シフトは、かな打ちできるキーボードです。
タイピングのプロ級、みたいな人ではないふつうの人にこそ、「紙とえんぴつを置き換え」て、考えながら書ける道具が必要だという観点から開発されたのが、親指シフトキーボードだったのでした。
じっさいワープロ専用機の時代には、人生で一度もキーボードに触れたことのない「完全初心者」でもすんなり馴染め、多くの「ふつうの人」をトリコにしたキーボードだったのでした。

残念ながら現在は、1980年代に存在したような親指シフトキーボードはどこにもありません。
なのである日とつぜん親指シフトしようと思い立っても、すんなりとはいかないのが現実です。
車を整備する技術と車を運転する技術はほんらい別のものですが、現在の親指シフトはそこがごっちゃになってしまったため、「運転するだけでいい」ローマ字入力に差をつけられてしまったのです。
しかし近年は自作キーボードの普及により、かつては考えられなかったほど自由なレイアウトのキーボードが手に入るようになりました。自作キーボードの環境を使えば親指シフトを実現することも困難ではなくなりました。
親指シフトにかんして誰かが保証をしてくれることはありませんが、逆に言えば保証さえ求めなければ”自由”は手にはいります。
当サイトでは歴史の闇に埋もれかかっていたOASYSキーボードの仕組みを掲載し、これをもとにしてOASYSキーボードの再現を実現した記事も書いています。
ということで本日は、親指シフトは「かな打ちできる」キーボードであることを、ご案内いたしました。
それでは皆さま、ごきげんよう。




