日本最古の「かな」配列からJIS86配列まで
日本語キーボードのキーにはたいてい「かな」の表記が刻印されています。
これがJISという日本工業規格(現在は日本産業規格)として定められた配列であることをご存知でしょうか。
「かな」配列の国家規格?
いやいや、いまどき「かな」入力する人なんてほとんでいないでしょう。ローマ字入力がふつうになった現在、「かな」配列の国家規格になにか意味があるの。
そんな気がしませんか。
でもかつてはJIS「かな」配列が標準だった時代もあったのです。そしてJIS「かな」配列の歴史をひもとくと、いろいろと興味深い経緯もあったようです。
今回は「文字符号の歴史: 欧米と日本編」安岡 孝一, 安岡 素子 著『共立出版』という書籍を参考にして、JIS「かな」配列の話を進めていきたいと思います。
目次
かつては「かな」配列が主流だった
現在では使う人が少なくなってしまいましたが、かつては現行JIS「かな」配列が日本語入力の主流という時代がありました。
日本語入力コンソーシアムの公式サイトで参照できるNICOLA規格には、キャノン販売(現キャノンマーケティングジャパン)が1990年7月に首都圏のワープロ保有500世帯にたいして行った調査結果が載っています。各入力方式の比率です。
現行JISかな | ローマ字入力 | 親指シフト | その他 |
55.1% | 30.9% | 15.1% | 1.8% |
windowsとか普及する前なのでまだまだワープロ専用機が頑張っていた時代です。
すごい。親指シフトしている人が15%もいたんですね。
そこじゃありません。
時代をさかのぼれば親指シフトのパーセンテージ、もっと高かったんですよ。
それはともかく、
1990年においても、現行JIS「かな」配列を使う人が多かったようですね。
そのJIS「かな」配列、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
現行JIS「かな」配列の源流
現在のJIS「かな」配列のもととなったカナタイプライタの配列は、ニューヨークのUnderwoodTypewriter社の技師バーナム・クース・スティックニー(Burnham Coos Stickney)さんという方が考案したものだそうです。
発案は仮名文字協会の創立者・山下芳太郎さんでした。カナタイプライタの必要性を感じていた山下芳太郎さんはもともと独自の配列を考えていたのですが、山下さんからカナタイプライタ製作の依頼をうけたスティックニーさんは
「おらの考えた配列のほうがいいだよ」(原文英語)
ということで1923年、最終的にスティックニーさんの考えた配列が特許として出願されました。「かな」の配列には山下芳太郎さんの考えも含まれていたはずですが、特許そのものはスティックニーさんの単独名義で出願されたそうです。このあたりの事情はこちらのサイトでも参照できます。
このスティックニーさんが考案したカナタイプライタの配列が徐々に変更を加えられ、最終的には1971年電電公社(NTTグループの前身)が採用した配列が、現在のJIS「かな」配列とほぼ同じものになるということのようです。
おなじみの配列ですね。
さらに当時の国際標準(と考えられていた)ISO 2530の制定と歩調を合わせて、国内でも制定されたのが、いわゆるJIS「かな」配列(JIS C 6233 → JIS X 6002)になります。
JIS「かな」の変遷
一般的には、現行JIS「かな」配列はスティックニーさんが考案した配列を改悪したものなのだと、昔から言われてきました。
とくに1964年に制定されたJIS B 9509では
もともとはシフト側にあった「せ」や「け」などの「かな」が右サイドに再配置されています。
結果として
- 50音の覚えやすさが崩れてしまった。
- 英語タイプライターのアルファベット領域とくらべて、大幅に右側の「かな」キーが増え、結果として右手小指の負担も増えた。
ということになりました。
なぜ「かな」の変更が行われたのかというと
図のようにシフトキーを押しながらアルファベットキーを押すことで英字を出したかったから、「せ」や「け」などを外側に追い出してしまったのだ、という見方があります。つまりシフト側に配置された「かな」は邪魔だから追い出してしまえ、という発想ですね。
機構上の理由から変更されたんですね。これだったら改悪だ、と言われても仕方がない気がしますけど。
スティックニーさんの配列でいちばんの長所は「50音配列を考慮した覚えやすさ」にあると思うので、それが崩れてしまったという観点ではたしかに改悪だと言われても仕方がないかもしれません。
ただスティックニーさんの配列を通産省・工業技術院サイドが一方的に変更してしまった、わけでもないのですね。どちらかというとすでに広まっていた配列をJISで承認した、というかたちを採ったのがJIS「かな」配列の歴史なんです。
民間が先行していたということですか。
JIS「かな」配列におおきな影響を与えた電電公社はいわゆる“官”の側になるので、民間が主導していたわけではないのですが、民間企業もかかわっていたのは確かなようですね。
たとえばこのレイアウトです。
1952年に日本タイプライター(現キヤノンNTC)が発売したタイプライター配列です。
スティックニーさんの配列とくらべて、現在のJIS「かな」配列に近いですよね。
一方、それにたいしてほぼ同時期に、どちらかというとスティックニーさんのカナタイプライター配列に近い機種もあったのですね。ようするに”改悪”していない「かな」配列です。
なんだ、やればできるじゃないですか。
正確にいうとqwerty配列と違うんですけどね。
3段シフトを採用することで、英文タイプライターの配列とスティックニーさんの考案した配列に近いものを両立させているのですね。
国鉄(JRの前身)がこの配列を使っていたということです。ただしカナタイプライタではなくテレタイプでの話です。
テレタイプ?
日本最古の「かな」配列
テレタイプというのは遠隔通信できるタイプライタのことで、モールス符号に置き換わるものとして1970年代くらいまで使われていたようです。
前述のように国鉄が使っていた配列が、スティックニーさんの考案した配列に近いもの、だったんです。
ところが
ですが、
じつは国内でテレタイプを始めた電電公社の配列はまったく異なるものだったのです。
最初に出てきましたよね。電電公社の配列が現行JIS配列のもとになったんですよね。
いいえ、ここでいっているのはそれ以前、1970年代よりもっと前の話なんです。
最古の「かな」配列
一般にはあまり知られていないのですが、かつて、現行JIS「かな」配列とは異なるもうひとつのJIS「かな」配列がありました。
電電公社が使っていたというもうひとつのJIS「かな」配列、見てもらった方がはやいですね。
見たことのない「かな」配列。
この配列はとても歴史の古い「カタカナ」配列のタイプライタを母体にしたものです。
そもそもは1901年に黒沢商店というところがカタカナ縦書きのタイプライタを販売して、1917年に大阪中央電信局が納入したんです。当時の逓信省(通信、海運などを統括する中央官庁)ですね。
その大阪中央電信局が「電信用カナタイプライタ」用に独自のキー配列を定めたんです。上図の配列はその電信用カナタイプライタの配列が母体になっています。
電報文や電報の清書に必要な記号、漢字などを収めた、日本最古の「かな」配列ですね。
下の図は1927年に始まったカナテレタイプ(和文印刷電信機)、逓信省標準のキー配列です。
ようするに1960年代
電電公社は、自前の配列(電信用カナタイプライタ由来の配列)を使い
国鉄は、スティックニーさんの配列に近いもの(現行JIS「かな」配列のもと)を使っていました。
そこで通産省・工業技術院は
電電公社の配列が正しい、電信用カナタイプライタ由来の配列をJISにする、と決めました。
話はややこしくなってしまうのですが1960年代、テレタイプとはべつにカナタイプライタのJIS「かな」配列というものもありました。こちらは現行JIS「かな」配列に似た配列です。
正確にいうと、上の図はJIS B 9509(B)と言われるもので、当然のことながらJIS B 9509(A)というよく似た規格もありました。
つまりこの時代、厳密にいうと3種類のJIS「かな」配列の規格が存在したことになります。
ややこしい、の一言ですね。
ちゃぶ台返し
さて、通産省・工業技術院によって正しいと太鼓判を押された電電公社の配列でしたが、1970年代に入ってその電電公社がちゃぶ台返しをすることになります。
電電公社は1970年、端末とコンピューターとの接続、文字コードの変更などにともなって新たな「かな」配列を採用しました。すでにふれましたが、それが現行JIS「かな」配列とおおむねおなじ「データ通信標準キー配列」です。
これによって長い歴史を保っていた日本最古の「かな」配列は、歴史の闇に消えていくことになりました。
シフトありからシフトなしへ
現行JIS「かな」配列は元の配列とくらべて50音配列の覚えやすさが崩れてしまった、右手小指を使うキーが増えてしまった、だから改悪なのだといわれつづけてきたことは上述の通りです。
ただ、国鉄の例にあるように、スティックニーさんの配列に近いものを実現することは機構上からも可能ではあったのです。
それでも全体の流れとして、シフト側に置かれていた「せ」や「け」などをシフトから外した配列が主流になっていったのは機構上の事情以外にもうひとつ、単純な理由があったような気がします。
単純な理由。
それは
シフトありよりもシフトなしのほうが楽じゃね。
ということです。
モロ単純ですね。
「文字キーを単独で押すときと、シフトキーを押しながら文字キーを押すときとでは違う操作性が必要になってしまう、それが従来のシフト方式の欠点なのだ」
といった趣旨のことをJIS86配列の考案者、渡辺定久さんも書いておられます。
条件付きではありますが、これには賛成です。
さすがに機械式タイプライターの経験は私にもありませんが、
私もです。
機械式タイプライターを使うとき、小指でシフトキー(シフトレバー?)を下げながら文字キーをタイプするのはそれなりに負担が大きかったのではないでしょうか。
なので、ローマ字入力などがまだ実用化されていない時代にこの負担から解放される方法、問題を解決するもっとも有効な方法はたったひとつ、
それはできる限りシフトなしで打つ
というストレートな解決方法だったのではないか、という気がします。
なので
「現行JIS「かな」配列はスティックニーさんの配列とくらべて50音配列の覚えやすさが崩れてしまった、右手小指を使うキーが増えてしまった、だから改悪なのだ」
という意見を全面否定はしないけれど、やや一面的ではないかなあ、という気もします。
いろいろ言われることの多い現行JIS「かな」配列ですが、少なくともこれだけは言えるのではないかと思います。
わかりやすい、と。
現行JIS「かな」配列は小書き文字などを別にすれば原則的に「かな」がシフトなしで打てるので、わかりやすさという意味ではやっぱり吸引力を持っていた、だからこそかつて日本語入力の標準の地位を保っていたんだと思うんです。
そういえば、親指シフトはシフトの回数が多いと、どこかのサイトに書いてあったのを見たことがありましたけど。
親指シフト、たしかにシフトの回数は多いですね。
ただ、親指シフトの良さっていうのは、シフトしているんだけれどそれをあんまり意識しなくてすむ、というか、シフト側の文字であってもダイレクトに「かな」キーを打っているような感覚を持てることなんだと思います。
それに対して現行JIS「かな」配列は、多くの「かな」をリアルにシフトなしで打てるわけで、ここは率直にすごいよな、と思います。「3割4割当たり前」的な大胆不敵さですね。
意味、よくわかりません。
というわけで現行JIS「かな」配列の長所を一言でいえば、とにもかくにも、わかりやすいということだと思います。
JIS86配列(”新JIS配列”)
1986年、通産省・工業技術院は新たなJIS配列を制定しました。”新JIS配列”です。しかし現在の「かな」配列とは異なる、普及しなかった配列に”新”をつけるのはふつうに考えておかしいよね、と思うので当サイトではJIS86配列という表記にしています。
大前提として、JIS86配列はプリフィクス・シフトといわれる方式を採用していました。(規格書の表記では「プレフィックス形シフト」)
プリフィクス・シフトというのはシフトキーを通常の文字キーと同じ操作性で打つことができるようにした方式です。具体的にはシフトキーを押して、押したシフトキーを離したあとで文字キーを押しても、シフト側の文字を打ち込むことができる方式です。
つまりローマ字入力でいうところの[K]キーや[S]キーなどの子音キーに該当するのが、プリフィクス・シフトキーです(言い方を変えればローマ字入力も広義のプリフィクス・シフト方式だと考えることができます)。
従来の「かな」配列とは異なる新しい方式を採用したJIS86配列、制定時においては、マスメディア対策も含め周到な準備をしていたにもかかわらず、市場からは事実上拒否されてしまいました。
でも当時の主流、現行JIS「かな」配列の長所がわかりやすさにあるのだという視点に立てば、なぜ”旧JIS”、つまり現行JIS「かな」配列の使い手が、”新JIS”への移行を拒んだのかの理由もわかるような気がします。
具体的に濁音や半濁音の入力を考えてみます。
上述のように現行JIS「かな」配列ならば原則として「かな」がシフトなしで打てるので「は」行でいうと、濁音「ば」も半濁音「ぴ」も常に2打鍵で打てます。
ほかの要素を度外視してとにかくわかりやすいかそうでないかでいえば、確実にわかりやすいです。
それにたいしてJIS86配列ではシフトありかシフトなしかの基準を「かな」の使用頻度によって分けているので、使用頻度の低い文字は打鍵数が多くなってしまいます。
は | ば | ぱ | |
---|---|---|---|
現行JISかな | 1打鍵 | 2打鍵 | 2打鍵 |
JIS86配列 | 1打鍵 | 2打鍵 | 3打鍵 |
ひ | び | ぴ | |
---|---|---|---|
現行JISかな | 1打鍵 | 2打鍵 | 2打鍵 |
JIS86配列 | 2打鍵 | 3打鍵 | 4打鍵 |
これに拗音が加わると事態はさらに複雑なことになります。
JIS86配列では使用頻度の高い「しょ」は2打鍵で打つことができます。拗音は発音上は「一音」なので、これはいい感じです。ところが使用頻度のあまり高くない拗音「ぴゅ」を打ち込もうとすると、はたしてどんだけキーを打たねば出てこないのだ、みたいな話になってしまいます。(正解は6打鍵です)
ちなみにですが、OASYSキーボードの場合「は」行は使用頻度が高いか低いかにかかわりなくすべてシフトなしの1打鍵、「ば」行はつねに反対側の親指キーとの同時打鍵、「ぱ」行は両サイドにあるShiftキーとの同時打鍵と、すべて一貫した操作で打ち込むことができました。これもまたシンプルであり同時にOASYSキーボードの設計思想でもありました。ただしこれはOASYSの場合であって、NICOLAでは若干の修正が加えられています。
ようするにJIS86配列、入力効率は高いのかもしれないけれど、自分たちが使う配列ではなさそうだ、そういう判断をしたのが当時の主流派、現行JIS「かな」の使い手だったのだろうと思います。
JIS86配列が標準にならなかった理由
上述のようにJIS86配列では、おなじ拗音の入力でも使用頻度によって2打鍵で打てたり、6打鍵必要になってしまったりとバラツキがあります。JIS86配列が入力効率を優先したのは確かだとしても、ふつうに考えてちょっと不自然かな、という気がしないでしょうか。
その不自然さの原因は何かと言えば
打鍵数、だと思います。
現行のJIS「かな」配列は(小書き文字などを別として)基本的には「かな」をシフトなしで打ち込むことができます。
それに対してJIS86配列は英語キーボードと同じようにアルファベット領域に「かな」を収めることが(規格書からわかる)設計思想です。そのため必然的にシフト側に割り当てた文字も現行のJIS配列より多くなります。
たとえば「ま行」(ま、み、む、め、も)は、現行JIS「かな」配列ではすべて1打鍵(シフトなし)で打てるのに比べ、改訂版であるJIS86配列では「ま行」の文字はすべて2打鍵(シフトあり)で打つことになります。
とうぜん打鍵数に差が出ます。
まともにいくと、一定の文章を打ち込んだとき、JIS86配列のほうが打鍵数がかなり多くなってしまうのです。
しかしこれは、まずい、のです。
なぜか。
JIS86配列は‟新JIS配列”だからです。
現行JIS「かな」配列の規格書からはこんな趣旨のことが読み取れます。
曰く、現行JIS「かな」配列は日本語入力に適しているとは言い難い側面があります。数字段まで「かな」が配置されているし、右手小指を使うキーが多いし、「かな」の使用頻度などはそれほど深くは考慮されていません。
曰く、それに比べJIS86配列は数字段に「かな」を割りあてていないし、右手小指を使うキーも現行JISより少なくなっていて負担が少ない。
曰く、そのうえ200万文字を超える膨大なテキストを解析して「かな」の使用頻度をすっごい研究しているし、さらに被験者をつかった実験・研究まで実施したその結果がJIS86配列なのです。
もはや言うことなし、改訂版のJIS配列、JIS86配列を使わない理由はないですね。
でも
「打鍵数は現行JISより多くなっちゃったポ」
というわけにはいきません。
それでは‟新JIS配列”としての態をなさない、ということになります。
JIS86配列が‟新JIS配列”である以上はこの点をどうしても克服する必要があったと思います。
そこで、打ちやすさとか馴染みやすさとかいった観点を脇に置き、とにかく「入力効率至上主義」に徹する。
具体的には使用頻度の低い「かな」を種別や用法にかかわりなく一律にシフト側のキーにわりあてて、シフトの押し下げ回数を少なくする。そこまで徹すると、トータルの打鍵数が新旧両JIS配列においてあまり差がなくなります。
これで理想とした‟新JIS配列”が完成することになります。数値の上からは、です。
同時に、完成度の高い配列との評価を受けながらもJIS86配列が市場から拒絶された理由もここにあったと思います。
「しょ」は2打鍵で打てるのに、「ぴゅ」は6打鍵が必要な配列? 私も含めた一般ユーザーには取っつきにくい、わかりにくい配列になってしまいました。
‟新JIS配列”という名前が足かせになってしまったとも言えます。
JIS86配列が普及しなかったもうひとつの理由
すでに市場で使われていた配列を追認するというかたちをとってきたJIS「かな」の規格でしたが、1986年に初めて前例のない規格先行、まったく新しい配列を規格として制定することになりました。
そもそもJIS(=Japanese Industrial Standards)という概念に照らし合わせたとき、それ以前に存在しない配列をJISとして制定することが妥当だったのか、という疑念もわきますが、その点にかんしては当サイトが扱う範囲を超えてしまうので触れません。
最後に個人的な意見です。JIS86配列が普及しなかった、根っこにある理由として、新キーボードの基礎研究が1980年に始まったことにある、と考えています。
だからなに? と思われるかもしれませんが、その時代はキーボードの使い手は主として法人でした。そして法人主体の状態がつづいたのであればJIS86キーボードが(ある程度)普及した可能性は十分にあったと考えます。
かつて富士通が親指シフトキーボードの開発を学会で発表したとき、「オカミがつくったJISというものがありながら」と眉をひそめるような空気が当時の学会、あるいは世間にあったのだと、書籍「ワープロ徹底入門 」(岩波新書)のなかで著者の木村泉さんが述懐しています。(「親指シフトは新JISの足音を聴くか」のなかでも触れています)
その当時のJIS「かな」配列には、遠く逓信省の時代から続く伝統の重み、とでもいうべきものがあったようにも思えます。
法人ならばその重みを尊重したでしょう。
ところが時代は法人主体から個人主体へと変わりました。
官公庁や法人ならJIS規格を遵守する姿勢をとるでしょうが、私たち末端の使い手から見ると「JISだから」「オカミの決めたものだから」ぜひとも使いましょう、なんていう感覚はあまりないですよね。
ある日とつぜん見知らぬ配列が上から降ろされてきて、
「今日からわたしがJIS配列である、使いなさい」
と言われても
「知らんよ、そんなもん」
で話は終わってしまいます、というか、終わってしまいました。
そして1999年、JIS規格としては「使用実績がないため廃止」にいたるという極端な結果になったのですが、その直接的な理由、というより最大の理由は言うまでもなく、JIS配列のかわりに新たな日本語入力の標準がでてきたから、にほかなりません。
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